今治城ではほぼ毎年、学芸員資格の取得を目指す大学生の方を受け入れて実習を行っておりまして、今年も7月30日~8月3日の5日間の日程で、1人の学生さんを対象に実習を行いました。
今年も学芸員が日々取り扱う古文書や掛軸の取り扱い方や刀剣の手入れの仕方の実践、或いは天守や各櫓の展示コーナーを見学を通じて良かった点や課題点を学生さんの視点で見つけてもらい、学芸員と討議する等を体験してもらいました。
他にも今年は初の試みとして、貴重な動植物が生息する今治城の犬走の見学も実習に組み込みました。
犬走から水中の魚を撮影。 |
そして、実習の最終目標は、学生さんに今治城が収蔵している史料群の中からジャンルを問わず1点を選んでもらい、天守4階に展示してもらう事。
古文書や刀剣の取扱い方を学びながら、同時に展示に向けての準備も進めていきました。
今回の実習で展示用として選ばれた 今治市出身の画家・大智勝観の作品。 |
数多くある今治城の収蔵史料の中で、学生さんが選んだのは、明治時代から昭和時代にかけて活躍した地元今治出身の画家・大智勝観(1882~1958)の作品「竹に烏瓜」でした。
展示史料が決まると今度はその史料を解説するためのキャプション作りです。
作者の経歴等を書籍で調べながら、キャプションを作ります。 自分で調べていくという作業が大事です。 |
キャプション内の文章とデザインを何度も練り直しながら、少しずつ自分の納得のいくものを作り上げていきます。
完成したキャプション。 |
ケント紙で印刷したキャプションを今度はハレパネというポリスチレンの非常に細かい粒子を低発泡させたパネルに貼り付け、カッターでキャプションの大きさ(A4サイズ)に切り取ると完成です。
簡単に書いてますが、カッターでハレパネを切り取るのはなかなか難しく、学生さんも大苦戦…
それでも何度か経験する事でコツを掴めたようで、3回目の挑戦できれいなキャプションが完成しました。
そしていよいよ完成したキャプションを持って、天守4階の展示ケースへ。
バランスを考えながら史料の展示位置を決めます。 |
実習で学んだ事を活かしながら、慎重に作業を進めていきます。 |
今回の展示史料は掛軸でしたが、ケースの外から見た時のバランスやキャプションの置く位置等、1つ1つ慎重に考えながら、展示作業を進めていきました。
そして作業を開始してから約1時間近く経った後、ようやく展示が完成!
展示完了です! |
当日は暑い中(ケースの中は特に…)の作業でしたが、学生さんもどうしたらお客様から見やすい展示になるかという点を意識しながら、何度も熱心に微修正を繰り返していました。
博物館・美術館に行くと多くの史料が展示されていますが、どれも見る側からの視点を意識したものになっています。
史料やキャプションの位置・そのキャプションの字の大きさ、デザイン、文章のわかりやすさ等々…
それらを総合的に考えながらの展示作業が、学芸員には必要になってくるのです。
非常に短い実習期間でしたが、学生さんにとっては未知の体験の連続だったかと思います。
博物館・美術館での仕事内容やその苦労が少しでも理解して頂けると嬉しいですね。
なお、今回の実習で展示した大智勝観作「竹に烏瓜」は、現在天守4階にて展示中です。
学生さんの観点から選ばれた作品とキャプションをぜひ御覧ください。
学芸員 伊津見