2025年9月23日火曜日

甲冑のお話

こんにちは。

 

一つ前のブログの続きです。

天守2階に展示中の江戸時代の甲冑について、面白いポイントをお伝えします。

 


ずらりと並んだ甲冑を見比べてみると、大まかな形や色はよく似ていますね。

形は当時の甲冑のタイプ「当世具足(とうせいぐそく)」であること、色は黒系がほとんどであることは、前のブログに記していますのでご参照ください。


しかし、形や色が似ているといっても、細かく見ると一領ごとに全て形状が違います。




これは展示する時に狙ってそのようにしたのではありません。

今治城で所蔵している甲冑を並べると、自然とそうなるのです。

 

なぜ、甲冑は個々で形状が異なるのでしょうか?

 

それは、甲冑は基本的に、既製品の大量生産ではなく、自ら発注して作るオーダーメイドだからです。

所有者(≒着用者。多くは武士)の体形に合わせて作られましたし、「武」を生業とする武士にとって、甲冑は自らのステータスシンボルであり、他の誰とも異なる存在だと示すために、個性的なデザインが施されているのです。

 

しかし、例外の甲冑があります。

こちらも、同じフロアに展示しています。



その形状はごく質素で、装備は少なく、デザインも単純です。

 

この甲冑は、武士一般よりも身分の低い下級武士や足軽用の甲冑です。

オーダーメイドで甲冑を作るには、それなりの費用がかかります。

身分も給与も低い足軽クラスでは自ら所有することは現実的ではありませんでした。

しかし足軽たちは、戦場の戦力としてはとても重要であったため、彼らの武具は主人の家や城中に用意されていて、必要な時に貸し与えられました。いわば「レンタル武具」でした。これらは、ほとんど同じデザインの既製品でした。

当時使用された甲冑の数としては、これらの甲冑はかなりの割合を占めていたと考えられます。しかし元来個人所有ではないため、必要で無くなった後に大事に保管されることは稀で、現代にはあまり伝わっていないのが現状です。


甲冑には、当時の武士の思いや身分差も刻印されています。

ご観覧された時に、少しでも感じ取っていただければ幸いです。

 

学芸員F